筋無力症とは

筋無力症とは
筋無力症は、神経から筋肉への指令が伝わらなくなる病気です。

筋肉を動かそうと考えると、脳から指令が出て、その指令が「電気信号」として脳、脊髄、末梢神経と伝わっていきます。
伝達の最後である「末梢神経の末端(神経終末)」と実行部隊の「筋肉」の間は、「神経筋接合部」と呼ばれ、直接接していません。このため、神経終末では「電気信号」に代わって、アセチルコリンという「伝達物質」を筋肉表面に向かって放出します。

筋肉表面にある「アセチルコリン受容体」が、神経終末から投げ出されてきたアセチルコリンを受け取って、ようやく筋肉は脳から出された指令を受け取り、「動かす」という実行に移ります。

神経伝達2

筋無力症は、末梢神経と筋肉のつなぎ目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が 自己抗体 により破壊されたり、受け取りを邪魔することにより起こる自己免疫疾患です。

先天性筋無力症候群は、筋接合部の先天的な蛋白欠損によるおこり、疾患の病態としては全く異なる疾患です。
アセチルコリン受容体が欠損をする「終板アセチルコリン受容体欠損症」、アセチルコリン受容体のイオンチャンネルの開口時間が異常延長する「スローチャンネル症候群」、異常短縮する「ファーストチャンネル症候群」、骨格筋ナトリウムチャンネルの開口不全を起こす「ナトリウムチャンネル筋無力症」、アセチルコリン分解酵素が欠損をする「終板アセチルコリンエステラーゼ欠損症」、神経終末のアセチルコリン再合成酵素が欠損をする「発作性無呼吸を伴う先天性筋無力症」に分類されます。
筋無力症

 2018年全国疫学調査

・患者数は29,210人、人口10万人あたりの有病率は23.1人
・男女比は1:1.15で女性に多い
・発症年齢は、5歳未満に一つのピークがあり、全体の7.0%。その後、女性では30歳台から50歳台にかけてなだらかなピーク、男性では50歳台から60歳台に発症のピークがある。発症平均年齢 59歳
・眼筋型 36.9% 抗アセチルコリン受容体抗体陽性 85.1% マスク抗体陽性 2.7% 胸腺摘出術 36.5%

患者数は29,210人ですが、実際には、軽度で病院にかかっていない人、確定診断が出ない人、小児など加えると5万人弱の患者がいるのではないかと推測されています。
筋無力症は、国の難病対策が始まった1972年から「特定疾患」として指定されており、基準を満たせば医療費助成を受けることができます。

筋無力症の自己抗体

筋無力症の原因となる自己抗体は、3つのタイプ(1,アセチルコリン受容体 AChR)(2,筋特異的チロシンキナーゼ MuSK)(3,血清陰性 判定不能)に分類されています。自己抗体は、血液検査で測定することができ、筋無力症患者特有の抗体であるため、陽性となった場合には、診断の材料になります。患者の中には、自己抗体が見つからない陰性の方もおり、ダブルセロネガティブ患者とも呼ばれています。近年、LDL受容体関連蛋白(Lrp4)も筋無力症に関与しているのではないかと言われていますが、他疾患でも陽性となるため、検討中となっています。

アセチルコリン受容体抗体(AChR)

抗体と補体の働きによって筋肉側の膜が破壊され、アセチルコリン受容体が減少、ひだが浅く単純化します。アセチルコリンが受容体に結合するのを阻止します。

マスク抗体(MuSK)

補体の関与がないため膜の破壊は少なく、抗体によってマスク蛋白の働きが阻害されるためにアセチルコリン受容体が減少すると考えられています。