小児重症筋無力症

重症筋無力症と診断されたお子さんへ

重症筋無力症は、小児慢性特定疾患に指定されている難病です。難病には、様々な病気がありますが、筋無力症は、的確な治療を受けながらサポートすることで、健常なお子さんと一緒に園生活や学校生活を送ることができます。

自己免疫疾患である筋無力症は、残念ながら現在の医療ではまだ完治が難しい病気です。そのため、長期にわたる治療が必要となります。しかし、病気を正しく理解し、適切な治療を続けることで、症状を最小限に抑えたり、「寛解(症状が消失している状態)」を保つのは可能です。お子さんの時期に発症した筋無力症は、大人で発症した場合よりも治療に反応しやすく、早い段階で診断を受け、適切に治療を受ければ、多くの場合、薬を飲まなくても寛解を保てるようになるのが特徴です。

筋無力症の診断と検査

覚症状の有無と、いくつかの検査を行い、総合的な結果から診断されます。

・血液検査と抗体
・アイスパック試験
・エドロフォニウム(テンシロン)テスト
・筋電図検査 ・胸部CT 胸腺や胸腺腫の検査

血液検査と抗体 
自己抗体は、3つのタイプ(1,アセチルコリン受容体 AChR)(2,筋特異的チロシンキナーゼ MuSK)(3,血清陰性 判定不能)に分類され、血液検査で測定できます。抗体は、筋無力症患者特有で、診断の材料になります。お子さんでは陽性になる割合は低く、時に診断は困難です。陽性になる例は、10歳未満では半数程度に過ぎません。

アイスパック試験  
眼瞼下垂が起きている瞼の上にアイスパックを2分間あてて冷却します。眼瞼下垂が改善すれば陽性と判断されます。
ご自宅でも簡単にできる検査です。

エドロホニウム(テンシロン)テスト 
酸エドロホニウムを静注して眼や全身の症状が改善されるかどうか確認します。

筋電図検査 
針を筋肉に挿入して電気的活動を記録する検査で、反復刺激試験、単線維筋電図があります。
この検査は、強い痛みを伴う検査で、成人患者でも辛い検査です。小児の場合、鎮静させて行う場合が多いです。

胸部CT 胸腺や胸腺腫の検査  
筋無力症の診断が確定したら、胸部のCTまたはMRI検査を行って、胸腺について評価するとともに、胸腺腫の有無を調べます。

筋無力症の特徴と症状

全身の筋力低下、易疲労性と眼瞼下垂や複視といった眼症状を生じやすい

・疲れやすい(易疲労性)     ・喋りにくい( 構音障害)
・手足に力がはいらない(脱力)    ・物が二重に見える (複視)
・瞼が下がる、開けにくい(眼瞼下垂)  ・ 飲み込みにくい( 嚥下障害)
・呼吸することが困難( 呼吸障害)

周囲が気づく異常 
目の位置がずれている、転びやすくなった、本人が「見え方がおかしい」と訴える(「物が二重に見える」とはっきり言えないこともあります)、まぶしそうに片目を細める、頻繁にウィンクする、夕方になると瞼が下がってくるので、顎を上げて物を見たり、眼の動きが悪いと顔を傾けたりするなどの行動から、ご家族の観察が重要になります。

全身型では頚(くび)や手足の筋力低下があり、夕方になるとやけに抱っこをせがんだり、ごろごろしたがるという症状がみられることがあります。重症な場合には飲み込みが悪くなったり、呼吸ができなくなるなど、時に命にかかわる重篤な場合もあります。 お子さんの場合、60~80%の患者さんは眼の症状だけの「眼筋型」です。 「眼筋型」は、本当に眼にしか症状のない「純粋な眼筋型」と、筋電図でよく調べてみると眼以外にも症状がある「潜在性全身型(せんざいせいぜんしんがた)」20%に分けられます。大人では逆に60~70%が全身型です。潜在性全身型の場合、全身型と同様に、しっかりとした治療が必要です。

ポイント 
筋無力症は、過度の疲労、ストレス、風邪などによる感染症、転居などの環境の変化、禁忌薬(筋無力症を増悪させる薬)の使用、女の子は生理で悪化することがあります。

筋無力症は、発症した時期、抗体の種類、家庭環境など個人差が大きく、医療機関、地域格差も大きいのが現状です。 検査方法も、受診する医療機関や医師によって異なり、診断にかかる時間も様々です。 乳幼児期は、お子さんが自分から体の調子を訴えたりどのように対処してほしいか伝えることができません。ご家族の観察が重要になります。

筋無力症の眼と症状と治療

目は、6つの筋肉(外眼筋)によって動かされています。この筋肉の働きが悪くなると、左右の目の位置がずれたり、物が二重に見える複視が起こることがあります。また、眼瞼下垂はまぶたの筋力が低下して起こるもので、多くの場合、最初は片方の目に症状が現れます。

小児期の視覚発達とMG 
子どもの視力は、6歳頃にはほぼ大人と同じくらいになります。特に3歳から8歳頃は、視力が大きく発達する「感受性期」です。この時期に眼瞼下垂や斜視、複視があると、視機能が十分に発達しません。 片目ずつの視力は正常でも、眼瞼下垂や目の位置のずれが続くと、両方の目で物を見る「両眼視機能」の発達が妨げられる可能性があります。

小児期の視覚発達とMG
両眼視機能は、生まれて3ヶ月頃から急速に発達し、3〜4歳頃には、遠近感を認識する立体視も完成します。この機能は9〜10歳以降には発達しなくなるとされています。 この発達期間中に斜視などが原因で両眼視が妨げられると、成長するにつれてこの機能を得るのが難しくなり、10歳を過ぎるとほぼ不可能になると考えられています。

ポイント 
子どもの重症筋無力症(MG)は、この両眼視機能の発達に重要な時期と重なることが多いため、目の症状がある場合は、眼科の専門家による適切な治療を受けることが非常に重要です。

筋無力症の治療

治療は、対症療法と免疫療法があり、治療の基本は免疫療法です。

対象療法と免疫療法 

筋無力症は、アセチルコリンの受け皿であるアセチルコリン受容体が抗体によりブロックされてしまうので、アセチルコリンの数を増やして、できるだけ受容体につく機会を増やすという治療法(対症療法)です。この方法では、症状は一見改善したように見えますが、抗体はそのまま受け皿の妨害をし続けていることには変わりなく、根本的に治療しているわけではありません。症状が軽い場合には、これだけで治ることもありますが、多くの場合は不十分です。悪さをしているのは、受け皿であるアセチルコリン受容体を妨害している『抗体』なので、根本的には、この抗体をなくす治療、すなわち、自己免疫機序を抑える治療(免疫療法)が必要です。 全身型では、抗コリンエステラーゼ薬では不十分なことが多いので、最初からステロイドで治療をします。効果が十分でない場合や、ステロイドは効果があるけれども、低身長や肥満などステロイドの副作用が目立ってきてしまった場合には、カルシニューリン阻害薬(タクロリムス、シクロスポリン)やアザチオプリンといった免疫抑制薬を一緒に使用します。免疫抑制薬は強い薬ですが、副作用に注意をして、しっかり検査を受けていれば心配はありません。一見眼の症状だけでも、筋電図で眼以外の四肢の筋肉に異常がある潜在性全身型も、抗コリンエステラーゼ薬では不十分なことが多いので、全身型と同じような治療を必要とします。

短期的病態改善治療 
全身の症状が重い場合(重症)、症状が急激に悪化した場合(急性増悪)、他の治療で効果が不十分な場合などで実施します。

・ステロイドパルス
・免疫グロブリン療法(IVIg)
・血液浄化療法(血漿交換)

胸腺腫・胸腺過形成

小児における胸腺腫はまれですが、癌ではない胸腺であっても、症状を悪化させる可能性があります。思春期に発症した小児や抗体値が高い場合、早期に手術を行うことで症状が急速に改善することがあります。薬物療法で症状が効果的にコントロールできない場合は、手術も治療の選択肢として検討されることがあります。

筋無力症の薬

薬の副作用 
薬は治療や症状を軽くする目的で服薬しますが、副作用が起きることがあります。副作用が起こる原因は、薬の成分、体質やアレルギー、他の薬との相互作用や飲み合わせなどさまざまですが、副作用が疑われる症状が出た時には、医師や薬剤師に相談をして対処してください。

自己判断による薬の調節 
主治医は、患者の体調に応じて薬剤やその量を決めています。副作用を恐れるため、自己判断で増減することはやめましょう。特にステロイドは、過度な減量をおこなうとショック状態となり危険です。

使ってはいけない薬(禁忌薬) 
筋無力症は、過度の疲労、ストレス、風邪などによる感染症、転居などの環境の変化、禁忌薬(筋無力症を増悪させる薬)の使用、女の子は生理で悪化することがあります。

怪我や事故などにより、急を要して対応しなければならない場面があります。筋無力症は、病気の特性により、筋肉を緩めるタイプの薬(麻酔薬・筋弛緩薬)は禁忌薬(絶対に使用してはいけない薬)とされています。また、抗生剤などにも使用してはいけない薬もあるので、必ず担当した医師や救急隊員、医療関係者に「重症筋無力症」であることをお伝えください。また、緊急で時間があまりない場合、問い合わせをすることができない場合には、命を優先してください。

 

筋無力症と禁忌薬 https://mgjapan.org/contraindicated-drug-mg/