筋無力症の薬と治療

筋無力症の治療

 筋無力症の治療は、疾患的要素⇒発症年齡、眼筋型、全身型、重症度、自己抗体検査結果、胸腺画像異常の有無と患者の生活要素⇒生活環境、生活状況など双方の要素を考え治療法が選択されます。
治療法には、対症療法と免疫療法があり、治療の基本は免疫療法です。

 内服薬による対症薬物治療や長期的病態改善治療、あるいは免疫グロブリン療法や血液浄化療法による即効性の短期的病態改善治療などがあります。
多くの場合、主治医と相談の上、これらを組み合わせた治療が行われます。医師任せにせず、筋無力症がどんな病気で、どのような治療をどのような目的で行い、どのような薬が必要であるのかなどを学び、理解し、病気と共存していくことが大切です。

対症療法

 病気の原因を取り除くのではなく、病気によって起きている症状を和らげたり,取り除く治療法で、眼瞼下垂や複視など眼や全身の症状(脱力や疲れやすさ)を改善させることを目的とする治療です。

対症療法として使われる薬

コリンエステラーゼ阻害薬 ⇒ 神経から筋肉への信号伝達を増強する薬剤
薬剤名(メスチノン、マイテラーゼなど)

メスチノン、マイテラーゼ
神経の末端から放出されるアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼ(酵素)の働きを抑えることで、神経筋接合部のアセチルコリンが増加します。アセチルコリンが増えれば神経から筋肉への刺激の伝達が改善され、筋肉の収縮を助け、眼や全身の症状が良くなります。
マイテラーゼはメスチノンよりも作用時間が長いというのも特徴です。

メスチノン、マイテラーゼ

免疫療法

 病気の原因である抗体の産生を抑制、もしくは取り除く治療

長期的病態改善治療

長期的に重症筋無力症の免疫異常を改善して、筋無力症状を良くする治療です。 長期的病態改善治療として使われる薬

ステロイド薬(内服薬)
 ステロイドは、副腎から分泌されている副腎皮質ホルモンを人工的に合成した薬です。体が異物を認識すると、マクロファージが異常を他細胞に知らせ、T 細胞やB 細胞が活発になり体を守っています。ステロイドは、全体的にマクロファージやT 細胞、B 細胞などの免疫細胞の機能を抑制させる働きがあり、自己抗体の産生を抑えています。

副腎

【副腎とは】
腎臓の上に位置する約2~3cmの小さな三角形の臓器で、左右1対ずつあります。 1つは約4~5g程度の小さな臓器ですが、人が生きるために必要なホルモンを分泌するとても大切な臓器です。

ステロイド説明

自己抗体の産生を抑えることで、神経から筋肉への指令伝達が改善され、筋力が回復します。長期間の服薬が一般的ですが、ステロイドを大量に長期間飲み続けると副作用などのために生活の質が落ちるので、治療初期にはある程度の量を使っても、維持量は少量にとどめることが推奨されています。ステロイド薬の早すぎる減量で、症状が悪化することがあります。

免疫抑制剤(カルシニューリン阻害薬)
免疫異常を改善することにより筋無力症状を回復させる薬です。多くの場合、ステロイド薬と一緒に、あるいはステロイド薬が使えない場合、また胸腺摘除術の効果が不十分な場合に使用します。免疫抑制剤と言われるために、免疫全てを抑制していると勘違いされやすいですが、ステロイドのように広範囲に免疫を抑制、阻害しているわけではなく、一部の免疫系の活動を抑制し、阻害する薬です。私たちが服用しているカルシニューリン阻害薬は、筋無力症を起こす免疫反応の中心的な役割を果たすヘルパーT 細胞の働きや増殖などを抑え、サイトカイン産生など異常な免疫反応を抑制する作用があります。主治医の指示に従って服用します。
薬剤名(タクロリムス⇒プログラフ、シクロスポリン⇒ネオーラル)

免疫抑制剤の説明
シクロスポリン(ネオーラル)、タクロリムス(プログラフ)の作用
2つの薬剤は構造が異なり、投与されたときに体内の細胞の中で結合する蛋白も異なりますが、(シクロスポリンはシクロフィリン、プログラフはFKBP)最終的に作用するところは同じで、カルシウムによって制御されているカルシニューリンという蛋白を抑制し、NFAT という一群の転写因子(遺伝子から蛋白を作る指令をだすもの)を抑制すると考えられています。

免疫抑制剤の説明2

補体阻害薬とモノクローナル抗体製剤
補体とは、抗体の働きを助けるたんぱく質で、C1 ~ C9 まで9 種類あり、補体成分を含む補体系は、40 種以上の血清、または細胞膜タンパク質から構成される複雑なシステムです。 筋無力症は、アセチルコリン受容体に自己抗体である抗アセチルコリン受容体抗体が結合することにより、補体が活性化し、シナプス後膜に膜侵襲複合体(MAC)を形成し、神経と筋肉のつなぎ目が破壊され、神経筋伝達に障害が起きます。補体阻害薬は、補体が自己抗体に結合するのを抑え、アセチルコリン受容体のある膜が破壊されるのを阻止します。
薬剤名(エクリズマブ⇒ソリリス、エフガルチギモド⇒ウィフガート)

短期的病態改善治療

全身の症状が重い場合(重症)、症状が急激に悪化した場合(急性増悪)、他の治療で効果が不十分な場合などで実施します。

免疫グロブリン療法(IVIg)
献血ヴェノグロブリンRIHを1日あたり400mg/kg体重を5日間連日点滴静注します。
免疫グロブリンの治療は、臨床試験において血液浄化療法と同程度の効果が確かめられています。また、血液浄化療法のような特別な装置は必要なく、通常の点滴で簡便に行うことができます。血液浄化療法で特に注意が必要な、血圧低下や細菌感染などの問題が少なく、高齢者や体格の小さな患者、全身状態が不良な場合でも実施しやすいという利点があります。

免疫グロブリン製剤

【免疫グロブリン製剤とは】
免疫グロブリン製剤は、血液中に含まれる(血漿タンパクの17~18%)免疫グロブリンG(抗体)というタンパク質を高純度に精製・濃縮した製剤で、国内の健康な人の献血血液から作られています。

血液浄化療法(血漿交換)
人工透析のような特殊な装置を用いて、アセチルコリン受容体抗体などの自己抗体を血液中から取り除く治療法です。通常は2週間に5回程度行います。効果は即効性で、一時的に症状の改善を期待する場合に用いられます。血液浄化療法には、単純血漿交換法、二重膜ろ過法、免疫吸着法があります。

【単純血漿交換療法】
血液を血漿分離膜により、血球成分と血漿成分に分離した後、分離した血漿を全て廃棄し、代わりに新鮮な血漿もしくはアルブミン溶液を補液として補充する治療法です。

単純血漿交換

【二重濾過血漿交換療法】
血液を血漿分離器により血球成分と血漿成分に分離した後、分離された血漿を血漿成分分離器を用いて病因物質などを分離除去し、アルブミンなどの有用なタンパクを体に戻す治療法です。

二重ろ過式血漿交換

【血漿吸着療法】
血液を血漿分離膜により血球成分と血漿成分に分離した後、分離された血漿を特定の吸着器に通し、選択的に病因物質を除去する治療法です。

免疫吸着血漿交換

ステロイドパルス療法
ステロイドパルス療法は、500~1000mgのステロイド(メチル・プレドニゾロン)を3日間連続で点滴することを1クールとして症状によって1~3クール行う治療法です。3日間連続で点滴した後は、4~5日程度休息期間を設けます。 免疫が抑制されるために感染症にかかりやすくなるので、手洗い、うがい、マスクの着用など感染予防を行う必要があります。

外科的治療(胸腺摘除術)

胸腺腫は筋無力症を引き起こす原因と考えられています。
胸腺腫を摘除することで症状が改善することがあるため、胸腺摘出を推奨しています。また、胸腺腫の状態や胸腺摘除により症状改善が見込まれる場合にも施行されます。また、全身型MGで胸腺腫がない場合には、年齢や症状、自己抗体の種類などを考慮して胸腺摘除術を行うかどうかを判断します。
手術は、神経内科医と呼吸器外科が連携して行なわれるのが一般的です。術式は「拡大胸腺摘除術」と「内視鏡下胸腺摘除術」があり、どちらの方法で行うかは、胸腺腫の状態や医療機関によって異なります。
どちらの手術も一長一短があります。また、手術後に一時的に筋無力症の症状が悪くなる可能性もあります。どちらにしても術後、定期的な検査は欠かさずに行う必要があります。

拡大胸腺摘除術

手術によって胸骨を縦に切り開き、その下にある胸腺をまわりの脂肪といっしょに取る方法です。
開胸手術となるため、入院日数も長く、体への負担も大きいですが、胸腺腫の取り残しや再発のリスクは小さいです。

内視鏡下胸腺摘除術

内視鏡(胸腔鏡)を使用し、胸骨を切らずに胸腺を摘除する方法です。
入院日数も少なく、傷跡も小さいため内視鏡で行う人は多くなりました。