眼瞼下垂や脱力など、何らかの異常を認めた場合、筋無力症と診断するためにいくつかの検査を行います。2022年に発行された「重症筋無力症の治療ガイドライン(改訂版)」では、診断方法として、いくつかの方法と基準、考え方が示されています。
MGの診断で考慮される症状
・眼瞼下垂 ・眼球運動障害 ・顔面筋力低下 ・構音障害 ・嚥下障害 ・咀嚼障害 ・頸部筋力低下 ・四肢筋力低下 ・呼吸障害
※これらの症状は、易疲労性や日内変動で現れる。
MGの診断で認められる抗体
・抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体 0.2 nmol/L 以上は陽性
・抗筋特異的受容体体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体 0.02 nmol/L 以上は陽性
※LRP4抗体は、病原性自己抗体として不明な点があるため診断基準の抗体として認められていません。
検査
・血液検査 ・眼瞼の易疲労性試験 ・アイスパック試験 ・エドロホニウム(テンシロン)試験 ・筋電図検査(反復刺激試験、単線維筋電図検査) ・胸部CT 胸腺や胸腺腫の検査
【血液検査】
抗AChR抗体を測定して、陽性であればMGと診断できます。陰性(0.2pmole/ml以下)であればさらに抗MuSK抗体を測定します。また、その他の疾患がないか検査します。MGは、甲状腺機能亢進症などの甲状腺の病気を合併することがあるため、甲状腺機能のチェックも行います。甲状腺の病気がみつかれば、同時に甲状腺の機能異常の治療を行います。
※抗アセチルコリン受容体抗体はMG患者にのみ現れる抗体で、正常人ではほとんど検出されないので。 この抗体があれば重症筋無力症であると考えられます。その値は個人差があり、少数から1000を越える人までさまざまで、値が大きいから症状が重いわけでは無く、数字の変動で判断します。
【眼瞼の易疲労性試験】
顔は動かさず、上の方を見る。最大1分間続け、瞼が下がってきたり眼瞼下垂が増悪すれば陽性
【アイスパック試験】
眼瞼下垂が起きている瞼の上に冷凍したアイスパック(冷蔵では効果が不十分)を2分間あてて冷却します。眼瞼下垂が改善すれば陽性です。
【エドロホニウム(テンシロン)試験】
神経と筋肉の間の刺激の伝達を改善させる薬剤(塩化エドロフォニウム)を静脈注射して、眼や全身の症状が改善されるかどうかをみます。
検査方法は医療機関によって様々ですが、偽薬(プラセボ)と実薬をいくつか使用し、判断する場合がほとんどです。
【筋電図検査】
筋肉が収縮する時や神経を電気で刺激するなどの筋肉や神経の信号の伝わり方を記録する検査で、針を手、肩や顔などの筋肉に挿入して神経に電気的刺激を行い、神経や筋肉に生じる電気的活動を記録する検査です。MGでは、刺激を繰り返すと次第に波形が小さくなります。
反復刺激試験
反復刺激試験では、10回の連続刺激を行い、1回目の複合筋活動電位の振幅に対して4回目もしくは5回目の振幅が10%以上減衰した場合に陽性と判定します。しかし、三角筋や僧帽筋ではMGよりもALSで陽性率が高いことが報告されており、反復刺激試験が陽性だけではMGとは診断できません。
単線維筋電図検査
神経筋疾患の神経筋伝達機能、特に神経筋接合部の機能状態を評価するために行われる筋電図検査です。同一の前角細胞に支配される2本の筋線維の電位を記録し、その変動で判定します。従来の筋電図よりも高い感度で神経筋疾患を診断することができます。
【胸部CT 胸腺や胸腺腫の検査】
筋無力症の診断が確定したら、胸部のCTまたはMRI検査を行って、胸腺について評価するとともに、胸腺腫の有無を調べます。
抗アセチルコリン受容体抗体を持つ患者さんの約75%に胸腺の異常(胸腺過形成、胸腺腫)が合併しており、何らかの胸腺の関与があると疑われています。また、MGでは約20%に胸腺腫という腫瘍が合併しているので、胸部CTやMRIなどの画像検査もします。
重症筋無力症診断基準2022
「重症筋無力症の治療ガイドライン(改訂版)」では、MGの診断基準として、症状、病原性自己抗体の有無、神経接合部障害の有無に加え、新たに血漿浄化療法によって改善が認められた場合、MGの診断基準となるとされました。